ディスカッション

私の思う心理支援についてディスカッションしました。

千﨑

私の思う心理支援とは何だろう、その答えはまだ見つかっていないように思います。多くの場面で心のケアが求められる世の中ではありますが、心理職というとなんだかぼんやりした印象があります。それはきっと明確な仕事のありようが定まっていないからではないでしょうか。だとしたら、心理士の数だけ心理支援があるのかもしれません。
 私が心理の専門家になりたいと考えたのは、地方に引っ越し、見知らぬ土地で幼い3人の子育てをしていた時期でした。自治体が企画する子育て講座への参加から始まり、セミナーなどのお手伝いをする中で臨床心理士というものを知りました。それから心理の勉強を始めたわけですが、いずれは子どもや家族の役に立つ心理の仕事がしたいと漠然と考えていました。心理士になってからは、乳幼児健診で多くの親子に出会い、お子さんの発達や親御さんの育児相談や親子グループなどに携わってきました。現在は総合病院の小児保健部で子どもとそのご家族の心理相談をしています。精神分析をベースにしたアセスメントや心理療法を実践していますが、心理療法の少ない経験の中でクライエントのためになったという実感もなかなか持てずにいます。虐待臨床研究会で虐待予防についてそれぞれの職種においての支援について意見を交わしますが、心理職として何ができるのか、その答えはなかなかみつかりません。
私の思う心理支援とは何だろう、この研究会はそれを考える会なのかもしれないと思いました。それぞれが思う心理支援という営みと向き合い、意見を交わし、歩みを止めずに進んでいけたらと思います。

私の思う心理支援とは? (井口)

 我が国では一般的に、「心理カウンセリング」という言葉は行きわたっているようであり、その訳語として「心理相談」も比較的受け入れられていると思われる。誰か心理専門職の人と対面で会って、自分の困りごと・悩みごとなどを相談するというのが、その概念的イメージである。しかし、そこに期待する内容は人さまざまであろう。ところが、「心理療法(サイコセラピー)」となると、もう一つ文化的にも歴史的にもまだ根付いていないし、「何をするのか、少し怖い世界」というイメージもあるかもしれない。もっとも「心理療法」にもいろいろな流派があり、何でも効率的に取り行いたい現代の風潮では、手軽に短期間で症状などを改善しようとする方向のものが好まれる傾向にある。

 私は今、子どもや思春期の人を主に対象としたメンタル・クリニック、及び、そこと連携した自費の心理相談室で仕事をしている。子どもたちの心身の不調や社会への不適応、そうした子どもたちを育てる保護者に対し、どのような支援が可能なのだろうか。それには、医師の診療や服薬といった手段や枠組みも必要であるが、心理職による「子どもたちの心の状態・発達に向き合い、遊びなどを通して新たな関係性を構築しながら、心の成長を図り、調子を整えていく」プレイセラピーや、「保護者の日々の子育ての悩みや葛藤を受け止め、保護者自身の気持ちの整理と人格的な成長を図り、家族全体の関係性をも考慮しながら、支えていく」カウンセリングなどが、「人が生きていく」流れのなかで、必要なのではないかと思う。そして、様々な頻度や形態が試みられてよいが、(自分の心の在り様と向き合う姿勢を持った)「心理療法的な支援」の視座を共有しつつ、人々の随伴者、ともに歩く人としての支援者でありたいと思っている。

私にとっての心理支援:村田

 「心理」という言葉も「支援」という言葉も広く知れ渡り、日常にも使われる言葉なのに、「心理支援」となると、昨今の風潮ではどこか、社会に適応していくためのサポートのように捉えられているようにも感じています。それも一つの支援の在り方だと思いますが、私が考える「心理支援」は、「こころ」という実際には目に見えない、形が見えないのだけれど確かにあるものを一緒に考えていくことだと思っています。どうやって子どもの苦しみ、不安、怖さや怒りがわかるのだろうと思われるかもしれません。心理士の役割は、その人のお話や子どもであれば遊び、表情、動きなど非言語的なことも含めて、目の前にいるその人が表していることに何があるのか、どう感じているのかを理解して、一緒に考えていくことにおつき合いすることだと考えています。

 私は今、日赤医療センターの小児保健部という所で仕事をしています。ここには赤ちゃんから中学生、そしてお子さんを取り巻くご家族がいらっしゃいます。生まれて間もない赤ちゃんがお母さんに抱かれてすやすや眠っている光景から、顔を真っ赤にして泣いている赤ちゃんを不安そうに抱いているお母さん、生後1ヶ月ほどなのにお母さんと見つめ合っている赤ちゃんもいます。プレイセラピーでも中学生とのセラピーでも、お子さんのことで悩んでいらっしゃるご家族も、私はその人の「赤ちゃん」を見ていると感じるようになりました。誰でも赤ちゃんの時があったのに、忘れて今があります。そのお子さんは、そのお母さんはどんな赤ちゃんだったのでしょう。言葉を話さない赤ちゃんが、抱っこされ守られ、全身で泣いて訴え、それに応えてくれる大人がいる。そんな関係の中で、周りで起きていることを取り込みながら育っていく赤ちゃんが、どこかでとても苦しい思いをしたり、寂しい思いをしたり、怖い体験をして、それがどうにもならなくなって今ここに居る。そんなことを訴える時に、傍で一緒にその思いを理解する大人がいることが、発達していく上でとても大切なことだと思っています。子どもの中の赤ちゃん、大人の中の子どもに関わっていくこと、「あなたを見ている人がここにいるよ」それが「心理支援」「精神分析的心理療法」の根っこだと思う今日この頃です。

私にとっての心理支援:坂内

 私は現在墨田区の児童発達支援センターに所属し,未就学児のお子さんに個別療育を行うと同時に,療育の時間内で保護者の方との面接を行っています。児童発達支援センターとは身体,知的または精神面に遅れや偏りのある未就学のお子さんに対して支援を行う施設です。日常生活の基本的な動作(生活動作),知識や技能の習得,集団生活への適応,その他必要な支援を行う場として,保育士,理学療法士,作業療法士,言語聴覚士,心理士,医師,看護師など専門職が協同して働きます。私の職場では個別療育はPT(理学療法),OT(作業療法),ST(言語指導),そして心理指導の4つに分かれます。では「心理指導は何をするの?」という時に,どう説明したら良いか…と考えることがあります。「言語理解や認知面を伸ばす」?「ルールを守って遊べるように支援する」?確かにそれもそうなのですが,もっと根っこに大事にしたいことって?と私なりに考えると,「関係性の支援」ではないかと思います。要求や拒否など自分の気持ちを適切に伝えられること,楽しさや悔しい気持ちを相手と共有すること,人や環境に対して期待を持てること…そのような「人との繋がり」を経験できるようになるための土台として大切になるのが,言語や認知の力,世の中のルール理解などにあたるのではないでしょうか。

「関係性の支援」は療育に限らず,心理支援全般に言えることだとも思っています。高校生の方や保護者の方とお話していると,家族の中での育ちやこれまでの人との関わりが現在の対人関係のありように繋がっていると考えられることが少なくありません。相手との間に何が起きているか,それをどう捉えていくかを考えていくことで,それまでの関係パターンに気づくことができたり,新しい対処法を見つけることができたりします。ただしそれにはつらさや痛みを伴うもので,一人で行うことは容易ではありません。心の中を見つめ,考えてみる。その作業に寄り沿ってくれる人がいれば,取り組んでみる勇気が少し出るかもしれません。一緒に心の中を見つめ一緒に考える作業そのものも「関係性の支援」であり,心理支援なのかもなぁ…と思いながら,今日も仕事をしています。

私にとっての心理支援:下山

 私は葛飾区の児童発達支援センター・放課後等デイサービス事業所に所属し、0歳から18歳までの障害を持つお子さんへの集団・個別療育を行っています。また保護者の方に相談を受け面接を行う機会があります。職場では保育士、言語聴覚士、音楽療法士、社会福祉士とチームで療育を行います。

「心理支援」については、心理士でないスタッフの方でも、日々お子さんと関わる中で自然と気持ちを理解し、意識しなくてもそれに合わせた対応をしていらっしゃるなと感じます。心理士としてチームに貢献できることは、人と人との間(子ども同士、子どもと家族、子どもとスタッフ、はたまたスタッフ間など…)で起こっていることを客観的な視点で分析し、共有することではないかと思います。そのために心理士は常に一歩引いて観察する目を持っていなければならないですね。私自身、忙しい日々、たくさんの情報量の中でそれを忘れてしまい反省することばかりなので全く偉そうなことは言えませんが…。

また障害特性の理解と専門的な支援技術についても、ご家族、療育の現場、保育・教育の現場に心理士が積極的に広めていくことで、お子さんもご家族もお子さんに関わる様々な人にとってもより過ごしやすい社会にしていけるだろうと思います。お子さんに対し適切なアセスメントを行い分かりやすく共有すること、そして効果的な支援方法をご家庭や支援の現場で実際に適切に実施してもらえるよう、ご家庭や現場での状況も踏まえた上でできる限り具体的に伝えることが重要だと思います。 現在の私の職場では、具体的な話が中心で心理療法的な面接をする機会はほぼありませんが、心理士として上に述べたようなことを大切にしながらお子さんとご家族の心理支援をしていきたいと思います。

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